Waseda University UNESCO World Heritage Institute
本研究組織の母体となる早稲田大学アジア建築研究会におけるアジアの建築調査研究は1981年より始められた。スリランカの古代建築を嚆矢として以来,継続的に主としてタイ,インドネシアにおいて東南アジアの建築遺構の実測調査を進めてきた。フエ遺跡群を対象とした本研究の研究方法と計画は,そこで培われた研究実績の延長上にあり,当初よりアジアの文化遺産の保護に強い関心を寄せてきた。
現在は,このような基礎的研究が実際の修復保存事業に応用される段階に達しており,本研究代表者中川武は,日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA)の専門技術総括責任者としてアンコール遺跡の修復保存事業に携わっている。
以下,本研究に直接関係する90年代初頭の準備状況とこれまでの研究の概要について記す。
1991年度
ユネスコ文化遺産保存日本信託基金からフエ王宮の正門であり儀式の場でもある午門の修復保存事業が計画され,その費用が拠出された。ヴィエトナム政府は専門家を内外から招聘しその結果,調査団を組織され,本研究代表者中川武が修復保存技術専門家の立場から参加した。その際,ハノイにおけるワーキンググループの開催,現地視察,現地組織との協議が行われ,文化部副部長ノン・クォック・チャン(当時)から国際共同研究の必要性についての提案及び要請があり,その具体的内容についての協議を行った。
ユネスコ文化遺産保存日本信託基金からフエ王宮の正門であり儀式の場でもある午門の修復保存事業が計画され,その費用が拠出された。ヴィエトナム政府は専門家を内外から招聘しその結果,調査団を組織され,本研究代表者中川武が修復保存技術専門家の立場から参加した。その際,ハノイにおけるワーキンググループの開催,現地視察,現地組織との協議が行われ,文化部副部長ノン・クォック・チャン(当時)から国際共同研究の必要性についての提案及び要請があり,その具体的内容についての協議を行った。
1993年度
午門の現地組織主導による修復事業が一応の区切りを見せたので,ヴィエトナム政府から修復評価調査団の団長として研究代表者中川武が招聘された。調査の結果,ヴィエトナム人専門家の我が国での研修の必要性が指摘され,その具体的内容について協議された。
午門の現地組織主導による修復事業が一応の区切りを見せたので,ヴィエトナム政府から修復評価調査団の団長として研究代表者中川武が招聘された。調査の結果,ヴィエトナム人専門家の我が国での研修の必要性が指摘され,その具体的内容について協議された。
1994年度
1993年に採択された科研国際学術研究「アジアの歴史的建造物の修復・保存方法に関する基礎的研究 -南アジアと東南アジアの比較を通して-」(平成 5~7年度,研究代表者:中川武)の2年目の研究計画に,フエ遺跡群の調査研究を盛り込み,王宮(皇城全域,含・紫禁城)の配置図作成を主とした測量を光学機器を使用して行った。
光波測定距儀による測量は,フエ遺跡保存センター(HMCC)の全面的な協力を受け,紫禁城内の宮殿建築の配置情報が初めて正確に捉えられた。また,現時点でのHMCCの事業の概要と将来的な計画の説明を受けた。
1993年に採択された科研国際学術研究「アジアの歴史的建造物の修復・保存方法に関する基礎的研究 -南アジアと東南アジアの比較を通して-」(平成 5~7年度,研究代表者:中川武)の2年目の研究計画に,フエ遺跡群の調査研究を盛り込み,王宮(皇城全域,含・紫禁城)の配置図作成を主とした測量を光学機器を使用して行った。
光波測定距儀による測量は,フエ遺跡保存センター(HMCC)の全面的な協力を受け,紫禁城内の宮殿建築の配置情報が初めて正確に捉えられた。また,現時点でのHMCCの事業の概要と将来的な計画の説明を受けた。
1995年度
ユネスコ文化遺産保存日本信託基金の拠出により,ヴィエトナム人専門家2名を三ヶ月間,我が国に招聘し,早稲田大学理工学部建築学科,奈良国立文化財研究所建造物研究室,眞木(大工棟梁・田中文男氏)及びその他の修理工時現場監理事務所の協力を得て実践的な研修が進められた。
文化財保存の基本的理念から具体的な修理保存技術に至るまで,個別の現場を通じて研修が行われ,そこで見聞した事柄はフエ遺跡群の修理工事現場において適用されつつある。
ユネスコ文化遺産保存日本信託基金の拠出により,ヴィエトナム人専門家2名を三ヶ月間,我が国に招聘し,早稲田大学理工学部建築学科,奈良国立文化財研究所建造物研究室,眞木(大工棟梁・田中文男氏)及びその他の修理工時現場監理事務所の協力を得て実践的な研修が進められた。
文化財保存の基本的理念から具体的な修理保存技術に至るまで,個別の現場を通じて研修が行われ,そこで見聞した事柄はフエ遺跡群の修理工事現場において適用されつつある。
1996年度
文部省科学研究費・国際学術研究「ヴィエトナム・フエ・グエン朝王宮の復原及び修復・保存方法に関する基礎的研究」(平成8~10年度,研究代表者:中川武・早稲田大学教授)が採択され,王宮および関連する建造物についての総合研究が本格的に展開され始めた。
夏期および春期に現地調査が行われ,主として王宮内の諸施設(紫禁城,奉先殿等)の配置測量,単体の宮殿建築である肇祖廟・興祖廟の実測などが遂行された。この調査に基づき,図面作成,寸法計画の分析が進められた。配置寸法計画としては基準格子を王宮の伝統的な計画方法を勘案しつつ設定し,その整合性を検証した結果,1丈あたり4240mmを造営尺度とした配置寸法計画が推定された。一方,単体の宮殿建築については柱径と柱間寸法の比例関係や主要な柱間相互の距離の逓減方法についての考察を進め,柱径に基づく単位長を前提とした平面計画方法について言及した。
文部省科学研究費・国際学術研究「ヴィエトナム・フエ・グエン朝王宮の復原及び修復・保存方法に関する基礎的研究」(平成8~10年度,研究代表者:中川武・早稲田大学教授)が採択され,王宮および関連する建造物についての総合研究が本格的に展開され始めた。
夏期および春期に現地調査が行われ,主として王宮内の諸施設(紫禁城,奉先殿等)の配置測量,単体の宮殿建築である肇祖廟・興祖廟の実測などが遂行された。この調査に基づき,図面作成,寸法計画の分析が進められた。配置寸法計画としては基準格子を王宮の伝統的な計画方法を勘案しつつ設定し,その整合性を検証した結果,1丈あたり4240mmを造営尺度とした配置寸法計画が推定された。一方,単体の宮殿建築については柱径と柱間寸法の比例関係や主要な柱間相互の距離の逓減方法についての考察を進め,柱径に基づく単位長を前提とした平面計画方法について言及した。
1997年度
夏期および春期に現地調査が行われ,歴代皇帝陵の悉皆調査と王宮内の宮殿建築の実測を中心に,その他,装飾床タイルの残存状況を写真撮影によって記録し,それらの分類を進めた。また,修理工事現場で散見される建築部材の接合部(継手・仕口)の写真撮影,木匠道具の分類を進めた.その他,大南一統志などの史料の電子情報化を進め,各々の宮殿の変遷を史料から読みとり図表として整理した.
夏期および春期に現地調査が行われ,歴代皇帝陵の悉皆調査と王宮内の宮殿建築の実測を中心に,その他,装飾床タイルの残存状況を写真撮影によって記録し,それらの分類を進めた。また,修理工事現場で散見される建築部材の接合部(継手・仕口)の写真撮影,木匠道具の分類を進めた.その他,大南一統志などの史料の電子情報化を進め,各々の宮殿の変遷を史料から読みとり図表として整理した.
1998年度
皇帝陵の正殿の実測調査を行い,実測値の傾向を分析した.陵内の正殿の遺構尺どは,若干のばらつきがあるものの,1尺につき,380mm~390mm程度の範囲に納まっている.その他,肇祖廟のスケール1/10の模型制作を行い,伝統的な施工手順に基づく復原考察を行った.
皇帝陵の正殿の実測調査を行い,実測値の傾向を分析した.陵内の正殿の遺構尺どは,若干のばらつきがあるものの,1尺につき,380mm~390mm程度の範囲に納まっている.その他,肇祖廟のスケール1/10の模型制作を行い,伝統的な施工手順に基づく復原考察を行った.
研究テーマ | ユネスコ世界文化遺産の保存修復 (2001~2006) http://www.kikou.waseda.ac.jp/WSD322_open.php?KenkyujoId=19&kbn=0&KikoId=01 |
研究概要 | 近年、我が国においてもいくつかの歴史的・文化的遺跡などがユネスコ世界遺産に登録され社会的に大きな関心を与えている。その結果、我が国の文化財と世界のそれへの保護政策などの対応が、総合的な視野の中で学術的に再構築される必要性がにわかに高まり、新しい学問の体系が発達していく可能性が極めて高い。 このことは本学においても、学部間を超えて、それぞれの研究の方法論を用いた問題点の克服が試みられてきた。ユネスコ世界遺産研究所の設立の背景には、本学のそれぞれの研究組織においてこれまで培ってきた個別のノウハウを一元化させ、調査・研究環境を整備すればそこに魅力ある学問の体系が生まれる可能性が極めて高いところにある。また、21世紀の我が国の国際協力と技術移転の役割に相応な、文化外交政策に基づく国際貢献を見据えた価値観が根付くであろう。 世界中に分布する遺産に共通する困難な課題を解決するという長期的展望に基づきながら、個々の具体的な事例研究を通じた研究方法を構築する。 |
2004年度 研究報告 | 当該年度は,以下の活動を進めた. 1.『福岡県宗像大社のユネスコ世界遺産登録に向けた推進活動』 世界遺産登録活動に対する意識向上を目的とした現地調査報告を作成し地元に配布.その他,国内の事例研究. 2.『古代エジプト・ダハシュール北遺跡の発掘調査と保存修復』 海外発掘調査を早大エジプト学研究所(所長:近藤二郎)と共同.出土遺物の保護と石造遺構の整備・保存. 3.『アンコールトム王宮前広場プラサート・スープラ塔・テラス及びアンコールワット北経蔵の保存修復』 アンコール遺跡の調査報告書 を発行.プラサート・スープラ塔およびアンコールワット北経蔵の保存修復工事が完了. 4.『プレ・アンコール,サンボー・プレイ・クック遺跡の保存計画』 同遺跡群の保存修復計画の立案を文化芸術省と共同.周辺地域の文化の保護を目的とした住民参加型のワークショップを開催. 5.『ユネスコ世界遺産・フエの建造物群とその環境保全』 フエの建造物群を対象とした海外学術調査を行ったほか,研究者を招聘し国内研修プログラムを実施. 6.『マレイシアの文化遺産の保護』 ジョホール州に残されるスルタン宮殿のひとつであるブキット・ザハラ宮殿の保存・修復・再生を課題とした二国間ワークショップを現地開催. |
研究テーマ | ユネスコ世界遺産の保全と大学の役割 (2006~2011) |
研究概要 | 近年、我が国においてもいくつかの歴史的・文化的遺跡などがユネスコ世界遺産に登録され社会的に大きな関心を与えている。その結果、我が国の文化財と世界のそれへの保護政策などの対応が、総合的な視野の中で学術的に再構築される必要性がにわかに高まり、新しい学問の体系が発達していく可能性が極めて高い。 このことは本学においても、学部間を超えて、それぞれの研究の方法論を用いた問題点の克服が試みられてきた。ユネスコ世界遺産研究所の設立の背景には、本学のそれぞれの研究組織においてこれまで培ってきた個別のノウハウを一元化させ、調査・研究環境を整備すればそこに魅力ある学問の体系が生まれる可能性が極めて高いところにある。また、21世紀の我が国の国際協力と技術移転の役割に相応な、文化外交政策に基づく国際貢献を見据えた価値観が根付くことが期待できる。 世界中に分布する遺産に共通する困難な課題を解決するという長期的展望に基づきながら、個々の具体的な事例研究を通じた研究方法を構築する。 |
2008年度 研究報告 | 当該年度は,以下の活動を進めた. 1.『福岡県宗像大社のユネスコ世界遺産登録に向けた推進活動』 2008年9月に「宗像・沖ノ島と関連遺産群」として世界遺産暫定リストに登録されたことを受け、各分野の研究者と行政が本登録に向け一体となって活動を進めるため,宗像市の担当者と2008年10月・12月に2009年1月「宗像・沖ノ島と関連遺産群」世界遺産推進会議顧問に中川が就任し,改めて活動の指針について検討と確認を行った. 2.『古代エジプト・ダハシュール北遺跡の発掘調査と保存修復』 早大エジプト学研究所(所長:近藤二郎)およびサイバー大学(学長:吉村作治)と共同.主に建築技術面と遺跡保存方法の検討を行う. 3."Safeguarding BAYON Temple" Project JSA(団長・中川)とカンボジア政府機構アプサラとの共同プロジェクトの計画に従って2008年度中にバイヨン南経蔵の修復工事,中央塔およびバ・レリーフの調査を行い,年次技術報告書を作成した.また,年2回(6月および12月)のアンコール救済国際調整会議(ICC)に出席し,プロジェクトの進捗状況を報告した. 4.『プレ・アンコール,サンボー・プレイ・クック遺跡の保存計画』 同遺跡群の中のN群を中心に台座等の修復工事,案内板等の整備,危険箇所の補強を文化芸術省と共同.寺院群にて考古学発掘調査を継続. 5.『ユネスコ世界遺産・フエの建造物群とその環境の保全及び宮廷音楽等無形文化遺産の保護・振興』 フエの建造物群を対象とする学術調査を継続.宮殿の梁行架構について,写真測量による詳細実測調査を行った.加えて阮朝皇帝による重要祭祀の場である南郊壇調査および無形文化財ニャーニャックの記録により文化的側面からもアプローチした. |
2007年度 研究報告 | 2007年度 当該年度は,以下の活動を進めた. 1.『福岡県宗像大社のユネスコ世界遺産登録に向けた推進活動』 世界遺産登録活動に対する意識向上を目的とした現地調査報告を作成し地元に配布.その他,国内の事例研究. 2007年12月24日「宗像・沖ノ島と関連遺構群」東京シンポジウム(於早稲田大学総合学術情報センター・主催福岡県教育委員会他)において,中川武特別講演「沖ノ島-大島-宗像-海の三宮構成における有軸空間の特質」を行った. 2.『古代エジプト・ダハシュール北遺跡の発掘調査と保存修復』 海外発掘調査を早大エジプト学研究所(所長:近藤二郎)と共同. 遺物の保護と石造遺構の実測調査および整備・保存. 3."Safeguarding BAYON Temple" Project JSA(団長・中川)とカンボジア政府機構アプサラとの共同プロジェク"Safeguarding BAYON Temple" を紹介する和文・英文のパンフレットを作成(10万部)し,修復現場にて配布した.年次技術報告書を作成した.また,年2回(6月および12月)のアンコール救済国際調整会議(ICC)に出席し,プロジェクトの進捗状況を報告した. 4.『プレ・アンコール,サンボー・プレイ・クック遺跡の保存計画』 同遺跡群の中のN群を中心に台座等の修復工事を文化芸術省と共同.寺院群にて考古学発掘調査,都城址において建築学調査を実施した. 5.『ユネスコ世界遺産・フエの建造物群とその環境の保全及び宮廷音楽等無形文化遺産の保護・振興』 フエの建造物群を対象とする学術調査を継続.宮殿の梁行架構の詳細実測調査を中心に,南郊壇調査,仏領期建築の意匠分類,宮廷音楽・舞踏に関する記録を目指した準備調査等を進めた.併せて財団法人竹中大工道具館より「ベトナムの伝統木造建築と大工道具に関する研究」に関する研究委託を受け実施した. |
2006年度 研究報告 | 当該年度は,以下の活動を進めた. 1.福岡県宗像大社のユネスコ世界遺産登録に向けた推進活動 2007年3月18日「宗像を世界遺産に!」シンポジウム(宗像市宗像ユリックスホール,主催RK毎日放送)において,中川武基調報告「海の聖域 宗像-大島-沖ノ島及び周辺海域の報告」を行った. 2."Safeguarding BAYON Temple" Project JSA(団長・中川)とカンボジア政府機構アプサラとの共同プロジェクト"Safeguarding BAYON Temple" を計画立案.日本人専門家とカンボジア人専門家および修復作業員を指導し,修復前調査,修復工事に向けた準備作業をほぼ完了した.年次技術報告書を作成し,発行した.また,年2回(6月および12月)のアンコール救済国際調整会議(ICC)に出席し,プロジェクトの進捗状況を報告した. 3.プレ・アンコール,サンボー・プレイ・クック遺跡の保存計画 遺跡群の中で最古の寺院遺構であるN群を中心に,補強等のメンテナンス作業を集中的に行った. 4.ユネスコ世界遺産・フエ遺跡群とその環境の保全計画 阮朝王宮の正殿である勤政殿の再建事業に資する学術情報(基壇の実測調査・白黒写真の分析・史料の読解)の整理を進め,併せて,ヴィエトナム社会主義共和国・中央政府省庁において,当該事業の推進に資する意見交換を進めた.現地調査においては,宮殿の木造架構・壇廟施設・都城の測量を進め, CAD図面を作成した. |
研究テーマ | ユネスコ世界遺産の保全と大学の役割 2011~2016 |
研究概要 | 2010年8月現在、世界遺産リスト登録件数は911件(文化遺産704件、自然遺産180件、複合遺産27件)が記載されている。185ヶ国にのぼる条約締結国数からも、最も成功した世界条約の一つといわれ、登録を目指す動きは加熱の一方で、途上国や新しい考え方による遺産の記載は増加が予想されている。しかし記載実現のためには、その固有の価値とともに、顕著な普遍的価値の証明や保護体制の構築などが必要である。記載を目指す運動自体が、必然的に地球的拡がりと人類史的な長期的視点からの遺産と地域の結びつきを見つめ直すきっかけとなる。また、記載後も遺産の保存活用のための人材育成が今後の課題として注目されており、多角的な国際協力体制の実現が求められている。環境・災害・食糧・資源・格差・紛争等の21世紀的世界の危機の深刻化の中で、遺産研究が地域や国の歴史文化の理解にとって不可欠であり、その保存・再生が疲弊した社会の復興の礎となり、人々の精神的一体性の源泉である公共空間回復に寄与すること、そして保護のための国際協調活動が、国際交流と平和構築に大きな役割を果たすことの期待がその背景にある。他方、すでに当該研究所は、古代エジプトやカンボジア・アンコール遺跡を中心とした世界遺産の調査研究・保存・修復と、文化遺産を地域の人々とともに保全する様々な試みにおいて国際社会から高い評価を得た活動実績があるこれらの実績を有機的に融合させるための学際研究の深化発展を基礎として、その理論的枠組みのもとに文化遺産の保存活用学の創成を目指す。 文化遺産の、固有な価値と現代世界における普遍的な価値との相関関係を事例に従って論理的に明らかにし、何をどこまで保存しどのように活用すべきかに関する基本理念を打ち立てる。 □ユネスコ世界遺産・フエの建造物群―阮朝王宮の歴史的環境の復原およびGIS構築 消失した阮朝王宮正殿・勤政殿の再建事業に資する復原研究を継続的に行う。残存する宮殿建築を対象として、写真測量学を援用しながら、既に得られた伝統住宅の設計技術の知見を合わせて、分析を行う。また、消失建物の姿を映す写真収集も引き続き行い、また収集写真と現存する建造物の比較により、細部意匠の研究を進め、3次元CGによる復原案を、より精緻なものとする。 蓄積された復原考察に資する情報の一元的な管理として、GIS(地理情報システム)の構築をする。 □古代エジプト遺跡群の発掘調査および保存修復 「アブシール南丘陵遺跡」「ダハシュール北遺跡」「ルクソール・アメンヘテブⅢ世王墓」「ルクソール貴族墓」「クフ王ピラミッド第2の船」の各遺跡の発掘調査結果を基に考古班と共同でネクロポリスとしての都市構造について考察する。また保存科学班と共同で発掘遺跡、トゥーム・チャペル(神殿型貴族墓)の保存と活用のための方法を提案する。 □カンボジア・アンコール遺跡群の保存修復 1994年から継続している、日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA、団長・中川武(当該研究所所長))を中心として、バイヨン及びアンコール・ワット北経蔵、プラサート・スープラでの解体修復工事を完了し、カンボジア政府アプサラ機構との共同チーム(JASA)第3フェーズとして、バイヨン南経蔵及び中央塔、内回廊レリーフ保存に関する調査研究を継続する。また、1933年にバイヨン中央塔の地下から発見され、現在は王宮前広場近くに設置されているバイヨン本尊仏の中央塔室内への再安置について検討を進めている。 □カンボジア:コーケー/ベン・メアレア 基本的な実測および図面作成が終了しているが、遺跡群全体把握のため、周辺の実測および部分的なクリアランス、地下探査、発掘等、考古学的調査に着手する。また主要な寺院遺構に関しては、危険箇所の緊急調査と簡易補修、及び中長期規模での修復工事を前提とした建築学的調査(危険箇所・劣化状況記録、構造的分析等)を、アプサラ機構との協議のもとに実施する。 □カンボジア・プレ・アンコール遺跡の保存計画 7世紀に築造されたと推測されている、クメール古代都市「イーシャナプラ」(サンボー・プレイ・クック遺跡群)の都城造営史の概要を解明することを目的に研究を進めている。それらの成果の上に都城内の発掘復元調査を行い、プレ・アンコール期の都市建築に対する基礎的理解を大きく前進させ、都城の全容解明のための長期計画を策定する。また、カンボジア政府に協力し、当該遺跡をユネスコ世界遺産リストに登録する準備を進める。 |
2013年度 研究報告 | 当研究所は、関連機関と協力の下、カンボジア及びベトナムの文化遺産を中心に、以下の活動を行った。 ■バイヨン寺院保存修復活動と地方のクメール遺跡における調査研究 バイヨン寺院の境内にある2つの塔(T57とT55)の修復活動、考古学的発掘調査、中央塔の安定化と内回廊浅浮彫りの保存の実現へ向けた準備を継続して行った。また、地方の調査では、主にプレア・ヴィヘア遺跡を対象に、配置及び計画方法の分析を進めた。 ■阮朝フエ王宮都市の調査研究と延福長公主祠修復工事 年2回の現地調査を通して、未調査箇所の測量や各種基礎資料の作成を行うとともに、勤政殿の再建へ向けた各種準備を関係機関と共同で行った。一方、延福長公主祠では、民間財団の調査研究助成の支援も受けつつ、修復工事を進めた。 ■シェムリアップ歴史地区の保存活動のための調査研究と国際ワークショップの開催 アプサラ機構都市観光局と共同で、オールドマーケット周辺の歴史地区を中心とした保存活動のための調査研究と2回のワークショップをシェムリアップで開催し、政府・学術関係者をはじめ、地元地域の人々を含めた議論の場を設けて検討した。 ■サンボー・プレイ・クック遺跡 保存修復とユネスコ世界遺産登録支援の両面から活動を行った。特に、プラサート・サンボー寺院主祠堂の修復工事、また、世界遺産登録へ向けた支援では、カンボジア文化芸術省とユネスコへ各種の資料提供や調査協力を行っている。 上記に加え、メコン川流域の5カ国(カンボジア、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマー)の研究者を招聘し、国際セミナーをJSPSの助成で開催し、保存活用の新たな可能性と協力体制構築へ向けた今後の課題を討議した。 |
2011年度 研究報告 | 当該年度は,以下の活動を進めた。 1."Safeguarding BAYON Temple" Project JSA(団長・中川)とカンボジア政府機構アプサラとの共同プロジェクトの計画に従って、2011年8月に第3次フェーズが終了し、同年12月にバイヨン南経蔵の修復工事完了の竣工式典の開催、および『第3次フェーズ完了報告書』を刊行した。2011年11月からは、第4次フェーズが正式に開始され、南経蔵の一部修復作業、散乱石材の同定作業、中央塔およびバ・レリーフの調査を継続しつつ、新たにバイヨン本尊仏再安置のためのレプリカ制作が開始された。また,年2回(6月および12月)のアンコール救済国際調整会議(ICC)に出席し、プロジェクトの進捗状況を報告した。 2.『プレ・アンコール,サンボー・プレイ・クック遺跡の保存計画』 2011 年度はプラサート・サンボー寺院内のN14-1 塔とN1 塔の修復工事を行い、遺跡群内の主要な遺構の現状記録もほぼ完了した。また、本遺跡群のユネスコ世界遺産への登録活動に関連し、周辺地域の開発事業のデザイン支援や、埋蔵遺構のガイドラインの見直しを継続して行った。 3.『ユネスコ世界遺産・フエの建造物群―阮朝王宮の歴史的環境の復原およびGIS構築』 フエの建造物群を対象とする学術調査を継続し、昨年8月に宮殿の梁行架構や細部意匠の現地調査、12月には勤政殿1/10架構模型を制作、復原再建のための検討を行った。また、昨年12月~本年1月にかけて、フエのフックティックでの調査、さらに1・3月には、貴族住宅(延福長公主祠)で保存修復に向けた基礎調査、ベトナム南部に位置するカッティエン遺跡でのGPS等を用いた基礎調査も行った。加えて、3月には無形文化財ニャーニャック実演の記録も行い、文化的側面からもアプローチした。 |
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